残業代を振替休日で相殺することはできる? 企業が気をつける点とは
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令和4年度(2022年度)に山口県内の労働基準監督署が監督指導を行った385事業場のうち、違法な時間外労働があったものは162事業場でした。
労働者に休日出勤をさせる際には、その代わりに振替休日を与えることで、残業代と振替休日を実質的に相殺して人件費を抑制することができます。
本記事コラムでは「振替休日」と「代休」の違いや、残業代を振替休日や代休と相殺する際の注意点などをベリーベスト法律事務所 山口オフィスの弁護士が解説します。
1、振替休日とは? 代休との違いは?
「振替休日」とは、あらかじめ法定休日を労働日とする一方で、その代わりに休日とされた労働日のことです。
以下では、振替休日の概要や代休との違いを解説します。
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(1)振替休日とは
労働基準法第35条では、使用者(経営者)は労働者に対して週1日(または4週間を通じて4日)の休日を与えなければならないと義務付けています。
この労働基準法に基づいて付与が義務付けられる休日を「法定休日」といい、法定休日に働くことを「休日労働」といいます。
法定休日に労働者を働かせるには、36協定で休日労働のルールを定めたうえで、それに従う必要があります。
さらに、使用者は労働者に対して、休日労働の割増賃金(通常の賃金に対して135%以上)を支払わなければならないのです。
しかし、あらかじめ法定休日と労働日を振り替えれば、もともと法定休日だった日に労働者を働かせても、36協定や割増賃金のルールは適用されません。
このとき、法定休日と振り替わる形で休日とされた労働日を「振替休日」といいます。 -
(2)振替休日と代休の違い
振替休日は、法定休日とあらかじめ振り替えることによって休日とされた日のことをいいます。
これに対して、法定休日に働いた労働者に対して、その代わりに事後的に付与される休日は「代休」といいます。
振替休日の場合、もともと法定休日だった日が労働日となるため、その日に働いた時間については休日労働の割増賃金が発生しません。
これに対して代休の場合には、労働者が働いた日は法定休日であるため、休日労働の割増賃金が発生します。(例)- 9月23日(法定休日)と9月25日(労働日)をあらかじめ振り替えて、9月23日を労働日、9月25日を振替休日とした場合
9月23日の労働については、休日労働の割増賃金が発生しない - 9月23日(法定休日)に働いた労働者について、事後的に9月25日(労働日)を代休とした場合
9月23日の労働については、休日労働の割増賃金が発生する
また、振替休日の代わりに働いた日は労働日として取り扱われるため、36協定に基づく休日労働のルールの対象外となります。
これに対して、代休の代わりに働いた日は法定休日であるため、36協定に基づく休日労働のルールが適用されるのです。 - 9月23日(法定休日)と9月25日(労働日)をあらかじめ振り替えて、9月23日を労働日、9月25日を振替休日とした場合
2、残業代は振替休日と相殺できる?
労働者に対して振替休日を与えれば、会社にとっては人件費の抑制につながります。
振替休日には休日手当を含む賃金が発生しないことから、実質的に休日出勤の賃金(残業代)を相殺できるためです。
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(1)振替休日に賃金は発生しない|実質的に相殺可能
労働者は原則として、働いていない時間について賃金を受け取ることができません。
これを「ノーワーク・ノーペイの原則」といいます。
ノーワーク・ノーペイの原則の例外としては有給休暇などが挙げられますが、振替休日については通常どおりにノーワーク・ノーペイの原則が適用されます。
したがって、振替休日については賃金が発生しません。
振替休日の代わりに働いた日については賃金が発生しますが、振替休日とされた日に支払うはずだった賃金を控除できるため、両者は実質的に相殺されます。
したがって、労働者に対して振替休日を付与することは、人件費の抑制につながるのです。 -
(2)働いた日は労働日扱いになる|休日手当も発生しない
代休とは異なり、振替休日の代わりに働く日は、法定休日ではなく労働日となります。
したがって、振替休日の代わりに働く日については、休日手当ではなく通常の賃金が発生するにとどまります。
会社としては、休日手当の割増分を支払わずに済むため、いっそう人件費の抑制につながる点が大きなメリットとなるでしょう。
3、残業代を振替休日・代休と実質的に相殺する際の注意点
以下では、労働者に振替休日や代休を与えて休日出勤の賃金(残業代)を実質的に相殺しようとする際に注意すべき点を解説します。
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(1)振替休日・代休については就業規則の定めが必要
振替休日や代休の付与に関するルールは、就業規則で定めておく必要があります。
就業規則の定めがないにもかかわらず、労働者の意思に反して、会社が一方的に振替休日や代休を与えることはできません。
一方的に与えた振替休日や代休の賃金を控除すると、労働者から未払い賃金を請求されるおそれがあるため注意が必要です。 -
(2)週の法定労働時間を超えると時間外労働手当が発生する
振替休日の代わりに働く日の労働時間は、休日労働としては取り扱われませんが、1週間における労働時間としてはカウントされます。
また、代休の代わりに働く日の労働時間は、休日労働として取り扱われることに加えて、1週間における労働時間としてもカウントされます。
1週間の労働時間が法定労働時間(原則として週40時間)を超えた場合は、超過分(法定外残業)について時間外労働手当が発生します。
時間外労働手当の割増率は、1か月当たり60時間以内の部分につき通常の賃金に対して25%以上、60時間を超える部分につき50%以上です。
労働者に休日出勤をさせた結果、1週間の労働時間が法定労働時間を超える場合には、正しく時間外労働手当を支払う必要があります。 -
(3)代休の場合は休日手当の割増分を支払う必要がある
代休の代わりに働く日の労働時間については、休日労働の割増賃金(休日手当)が発生します。
休日手当の割増率は、通常の賃金に対して35%です。
休日手当のうち、通常の賃金分については代休の賃金相当額と実質的に相殺できますが、割増分については相殺できずに残る点に注意が必要です。(例)
所定労働時間が1日8時間、1時間当たりの基礎賃金が2000円の労働者が、法定休日において8時間労働する代わりに、代休を1日与えられた場合
休日手当は2万1600円(=2000円×8時間×1.35)
代休について控除できる賃金は1万6000円(=2000円×8時間)
→差額5600円(35%の割増分)を支払う必要がある -
(4)有給休暇扱いにしてほしいと労働者に言われた場合の取り扱い
労働者のなかには、「振替休日や代休を有給休暇扱いにしてほしい」と言ってくる者もいるでしょう。
振替休日と代休には賃金が発生しませんが、有給休暇には賃金が発生するため、労働者にとっては有給休暇扱いされたほうが有利です。
とくに有給休暇の消化が進んでいない労働者なら、振替休日や代休を有給休暇扱いとすることを希望する可能性が高いでしょう。
振替休日や代休を労働者の希望に従って有給休暇扱いにできるかどうかについては、就業規則の定めがあるなら、それに従うことになります。
とくに定めがない場合には、以下のような要領で取り扱ってください。① 労働日と法定休日がすでに振り替えられている場合、または代休日がすでに指定されている場合
振替休日や代休日を有給休暇に変更する必要はありません。有給休暇はあくまでも労働日に休暇をとる権利であり、休日の性質を変更する権利ではないからです。
② 労働者がすでに有給休暇を申請している場合
労働者が有給休暇を申請した日を、一方的に後から振替休日や代休に変更することはできません。正当な権利行使を後から覆す点で、労働者に不利益を与える措置となるためです。例外的に、労働者が自主的に有給申請を取り下げ、使用者が任意にその取下げを承認するという手続を踏んだうえで、改めて代休を付与するという取り扱いをすることは考えられます。
4、人事労務のお悩みは弁護士に相談を
振替休日や代休の取り扱いを含めて、人事労務に関しては注意すべきポイントがたくさんあります。
不適切な取り扱いをすると労働者とのトラブルや労働基準監督署の行政指導などにつながってしまうので、不安がある場合には弁護士に相談してください。
弁護士は、労働条件および労働環境に関するアドバイスや社内規程の整備など、企業の人事労務管理の適正化を幅広くサポートすることができます。
また、実際にトラブルが生じた場合の対応も、会社の損害を最小限に抑えるための対応を依頼します。
企業の経営者で、人事労務管理についてお悩みの方や労務コンプライアンスを強化したい方は、まずは弁護士に相談することをおすすめします。
5、まとめ
労働者に振替休日を与えると、残業代を実質的に相殺できるため、人件費の削減につながります。
その一方で、振替休日と代休の違いや就業規則のルールなど、さまざまなポイントに注意が必要です。
ベリーベスト法律事務所では、人事労務管理に関するご相談を随時受け付けております。振替休日や代休の取り扱いを含めて、人事労務管理に関するご相談は、まずはベリーベスト法律事務所までお問い合わせください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています