是正勧告とは? 調査などの対象となる理由と無視したとき起こること
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- 是正勧告とは
令和4年度に山口労働局が監督指導を行った385事業場に対して、労働基準関係法令違反が認められた事業所は285事業場でした。主な法違反の多くは時間外労働です。
労働基準法や労働安全衛生法などの法令に違反した場合、労働基準監督官による是正勧告を受けるおそれがあります。労働基準監督署から調査の連絡や是正勧告を受けた企業は、速やかに弁護士へ相談して対応を検討しましょう。
本記事では労働基準監督官による是正勧告について、ベリーベスト法律事務所 山口オフィスの弁護士が解説します。
1、是正勧告とは? 調査との違いも解説
「是正勧告」とは、法令違反をした事業者に対して、違法行為を改めるよう求める労働基準監督署が行う行政指導のことです。具体的には、労働基準法や労働安全衛生法などに違反する事業者に対して、是正勧告が行われることがあります。
行政指導は、「行政機関がその任務又は掌握事務の範囲内において一定の行政目的を実現するため特定の者に一定の作為又は不作為を求める指導、勧告、助言その他の行為」であって、法的拘束力のある行政処分ではありません。そのため、行政指導たる是正勧告は、それ自体に法的拘束力はありません。
しかし是正勧告を無視し続けると、改めて行政処分や刑事訴追が行われる可能性が高くなります。そのため、事業者は是正勧告に従って、速やかに違法状態を是正することが求められます。
なお、是正勧告を行うのに先立ち、労働基準監督署などの行政機関は、事業場に対して立ち入り調査を行います。立ち入り調査は、違法状態の有無を確認する目的で行われるものです。調査結果に応じて、是正勧告を行うかどうかが決まります。
2、是正勧告が行われ得るケースの例
事業者に対して是正勧告が行われるケースとしては、以下の例が挙げられます。
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(1)違法な長時間労働が行われている場合
労働者(従業員)の労働時間は、労働基準法によって規制されています。
使用者は原則として、法定労働時間を超えて労働者を働かせてはなりません(労働基準法第32条)。法定労働時間を超える労働(=時間外労働)をさせるためには、労使協定(36協定)を締結する必要があります。
上記のルールに違反して、使用者が労働者に違法な長時間労働を指示している場合は、労働基準法違反による是正勧告の対象となります。 -
(2)残業代が正しく支払われていない場合
所定労働時間を超えて働いた(=時間外労働をした)労働者に対しては、労働基準法の規定に従って残業代を支払わなければなりません。また、休日労働や深夜労働をした労働者に対しても、残業代を支払う必要があります(労働基準法第37条参照)。
残業代を正しく支払わない場合、事業者は労働基準法違反による是正勧告の対象となります。 -
(3)就業規則の作成・変更義務に違反している場合
常時雇用する労働者が10人以上の事業場においては、就業規則を作成した上で、行政官庁に届け出なければなりません(労働基準法第89条)。就業規則の作成・届出義務に違反した事業者は、労働基準法違反による是正勧告の対象です。
また、就業規則の作成又は変更を行う際には、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表者する意見をきき(同法90条第1項)、その意見を記した書面を届出時に添付しなければなりません(同条第2項)。
労働者の過半数代表者の選出にあたっては、労働基準法第41条第2号に規定する管理監督者は選出できず、使用者の意向に基づく選出も認められません(労働基準法施行規則第6条の2第1項)。選出方法について不適切な点があった場合も、事業者は是正勧告を受けるおそれがあるので注意が必要です。 -
(4)労働者の安全が確保されていない場合
労働安全衛生法では、労働災害の防止のための危害防止基準の確立、責任体制の明確化及び自主的活動の促進の措置を講ずる等その防止に関する総合的計画的な対策を促進することにより職場における労働者の安全と健康を確保するとともに、快適な労働環境の形成を促進することを目的としています(同法第1条)。
労働安全衛生法に違反して、労働者の安全確保等の措置を怠った事業者は、労働基準監督署による是正勧告の対象となります。
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3、労働基準監督署の是正勧告手続きの流れ
労働基準監督署による是正勧告の手続きは、以下の流れで進行します。
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(1)労働基準監督官による臨検(立ち入り調査)
労働基準監督署は、是正勧告を行う前に労働基準監督官を事業場へ派遣し、臨検(立ち入り調査)を行うことができます(労働基準法第101条第1項、労働安全衛生法第91条第1項)。
臨検において、労働基準監督官は帳簿・書類の提出を求め、または使用者・労働者に対して尋問(質問)を行うことができます。
さらに労働安全衛生法に関する立ち入り調査の際には、関係者に質問し、帳簿書類その他の物件を検査し、若しくは作業環境測定を行い、又は検査に必要な限度において無償で製品・原材料・器具を収去することも可能です。
臨検を通じて労働基準監督官は、労働基準法や労働安全衛生法に違反する事実があるかどうかを調査し、是正勧告の必要性を見極めます。 -
(2)是正勧告
臨検の結果、労働基準法や労働安全衛生法に違反する事実が判明した場合、労働基準監督官は使用者に対して是正勧告を行います。
是正勧告は、「是正勧告書」という書面で行われ、書面には法令違反に当たる具体的な事実や、各違反事実についての是正期日が記載されます。使用者は、是正勧告書の内容に従って、法令違反の是正に取り組まなければなりません。 -
(3)一定期間内の是正・労働基準監督署に対する報告
是正勧告書においては、違反事実の是正期日が記載されます。是正期日は、是正にかかると見込まれる期間を踏まえて、労働基準監督官が個別に決定します。
使用者は、是正期日までに違反事実を是正した上で、その旨および経過を労働基準監督署に報告しなければなりません。労働基準監督署への報告は、「是正報告書」の提出によって行います。
4、調査や是正勧告を無視したらどうなるのか
労働基準監督署による調査や是正勧告を無視すると、法令に違反している状況が継続することになるので、労働安全衛生法に基づく行政処分を受けたり、または刑事訴追されて刑事罰を受けるおそれ等が考えられます。
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(1)労働安全衛生法に基づく行政処分を受けるおそれがある
労働安全衛生法違反を犯した事業者に対して、または、労働基準法違反をしていない場合でも労働災害発生の緊迫した危険があり、かつ、緊急の必要がある場合は、都道府県労働局長または労働基準監督署長により、以下の行政処分が行われることがあります(労働安全衛生法第98条第1項、第99条第1項)。
- 作業の一部または全部の停止
- 建設物等の全部または一部の使用の停止又は変更
- その他労働災害を防止するため必要な事項
労働安全衛生法に基づく行政処分を受けると、会社の操業に大きな影響を及ぼします。通常どおりの操業ができなくなると、売上の低下に直結してしまいます。
行政処分を回避するためにも、労働安全衛生法違反の是正勧告を受けたら、速やかに是正を行いましょう。 -
(2)刑事訴追されるおそれがある
労働基準法および労働安全衛生法に違反する行為の一部は、刑事罰の対象とされています。
<労働基準法違反>
主な違反行為 法定刑 - 強制労働(第5条)
1年以上10年以下の懲役または20万円以上300万円以下の罰金(第117条)
※両罰規定により、法人にも20万円以上300万円以下の罰金(第121条)- 中間搾取(第6条)
- 最低年齢未満の児童の労働(第56条)
- 一定の者の坑内労働等(第63条又は第64条の2、第70条参照)
1年以下の懲役または50万円以下の罰金(第118条)
※両罰規定により、法人にも50万円以下の罰金(第121条)- 解雇予告義務違反、解雇予告手当の支払義務違反(第20条)
- 違法な時間外労働(第32条)
- 休日の付与義務違反(第35条)
- 時間外等割増賃金の不払い(第37条)
- 年次有給休暇の付与義務違反(第39条参照)
- 産前産後休業の付与義務違反(第65条参照)
- 労働基準監督署への申告を理由とする不利益な取り扱い(第104条第2項)
6か月以下の懲役または30万円以下の罰金(第119条)
※両罰規定により、法人にも30万円以下の罰金(第121条)- 労働条件の明示義務違反(第15条1項)
- 休業手当の支払義務違反(第26条)
- 就業規則の作成、届出義務違反(第89条)
30万円以下の罰金(第120条)
※両罰規定により、法人にも30万円以下の罰金(第122条)
<労働安全衛生法違反>
主な違反行為 罰則(法定刑) - 特別の安全衛生教育の不実施(第59条第3項)
- 健康診断等に関する秘密漏えい(第105条)
6か月以下の懲役または50万円以下の罰金(第119条)
※両罰規定により、法人にも50万円以下の罰金(第122条)- 衛生管理者の不選任(第12条第1項)
- 産業医の不選任(第13条第1項)
- 衛生委員会の不設置(第18条第1項)
- 安全衛生教育の不実施(第59条第1項)
- 健康診断の不実施(第66条第1項から第3項)
- 書類保存義務違反(第103条第1項)
50万円以下の罰金(第120条)
※両罰規定により、法人にも50万円以下の罰金(第122条)
労働基準監督官は、労働基準法および労働安全衛生法に違反するについて、司法警察官(司法警察員)の職務を行います(労働基準法第102条、労働安全衛生法第92条)。
労働基準監督官の是正勧告を無視し続けると、事件が検察官に対して送致され、刑事訴追されるおそれがあるのでご注意ください。
5、まとめ
労働基準監督署による是正勧告は、行政指導であるため法的拘束力がありませんが、従わないと行政処分や刑事罰を受けるおそれがあるので注意が必要です。是正勧告に従い、速やかに違法状態を是正しましょう。
ベリーベスト法律事務所 山口オフィスでは、人事・労務管理に関するご相談を随時受け付けております。労働基準法や労働安全衛生法の違反を防ぐためのリスクマネジメントや、労働基準監督署の調査・是正勧告への対応についても、弁護士がアドバイスいたしますので、お気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています